大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所福山支部 昭和49年(ヨ)7号 決定

申請人 近藤典康

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 緒方俊平

被申請人 中央不動産株式会社

右代表者代表取締役 佐藤光也

右訴訟代理人弁護士 上寺良雄

主文

申請人近藤典康、同斉藤富美恵、同福岳定一、同沢田シズエが共同して七日以内に被申請人に対し金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の保証を立てることを条件として、被申請人は別紙物件目録(一)記載の土地上に建築中の同目録(二)記載の建物につき、本案判決の確定に至るまで、建築業者に請負わせ又は自ら左記の工事を中止し、これを続行してはならない。

一、パーキングタワーの建設。

一、別紙図面赤斜線部分内において二階以上の部分の建築。

理由

第一、当事者の求める裁判

一、申請人ら

主たる申請の趣旨

被申請人は別紙物件目録(一)記載の土地上に建築中の同目録(二)記載物件につき申請外竹中工務店株式会社等の建築業者に依頼し又は自ら三階を越える建築工事をしてはならない。

予備的申請の趣旨

被申請人は別紙物件目録(一)記載の土地上に建築中の同目録(二)記載建物につき申請外竹中工務店株式会社等の建築業者に依頼し又は自ら左の工事をしてはならない。

(1)  右土地上に計画しているタワーパーキングの建設。

(2)  右建物北東の角から東南方面の壁に沿って六・九メートル、西南方面の壁に沿って八・八九五メートルを二辺とする長方形部分のうち階段およびエレベーター部分を除く部分の建築。

旨の仮処分命令。

二、被申請人

申請人らの申請を却下する。

との命令。

第二、当裁判所の判断

一、本件疎明資料によれば次の事実が一応認められる。

(一)  申請人らはいずれも肩書住居地に店舗兼居宅(申請人近藤は四階建、その余の申請人は二階建)を所有し、申請人近藤は昭和四四年から、同斉藤は昭和二五年から、同福岳は昭和二四年から、同沢田は昭和三一年から同所に居住しており、(その位置関係の概略は別紙図面のとおり。)いずれもその居住建物北側部分を店舗の、南側部分を居住の用にあてている。その各店舗は福山市三大商店街の一つである霞銀座通りに面し、右通りにはアーケードが設置されている。

(二)  別紙物件目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)は右申請人ら居住地の南に位置し同所一帯は用途上、商業地域(但し高度利用地区ではない。)に指定されており付近には二階建の店舗兼居宅が多く、三、四階建の建物は数戸あり、それより高い建物としては六階建の建物が本件土地から約四〇メートル離れたところに一つあるのみである。

(三)  被申請人は昭和三一年設立され、昭和四三年以来本件土地をその代表取締役佐藤光也らと共有するものである。右佐藤は昭和三〇年ごろ本件土地上に木造二階建アパート(中央アパート)を建て賃貸してきたが昭和四七年一〇月これを撤去し、以来本件土地を有料駐車場として利用してきた。

被申請人は本件土地上に別紙物件目録(二)記載の建物(以下本件建物という。)建築を計画し昭和四八年七月九日申請外株式会社浪速設計事務所に設計を依頼し、福山市から建築確認を得たうえ同年一〇月申請外竹中工務店株式会社に本件建物の建築を請負わせ、右竹中工務店は昭和四九年一月二四日基礎工事を終了し現に建築工事中である。

本件建物は一階を店舗二、二階を事務室五に充て三階以上を共同住宅とし、三階が五戸、四階から七階までが各四戸と計画されている。本件建物は建築基準法上適法建築物である。

本件建物の申請人ら居宅との距離は大体一・八メートル、被申請人側の境界線からは〇・三メートルである。

(四)  本件土地上には以前右木造二階建中央アパートがあったため申請人らの住居は既に日照の阻害を受けていたがそれでもなお相当の日照があった。ところが本件建物が設計どおりに完成した場合に申請人らが受ける日照の程度は冬至において申請人近藤居宅三、四階開口部は午後二時すぎから四時までの約二時間、同福岳居宅は午後〇時すぎから四時までの約四時間、同沢田居宅は午前九時半ごろから一一時ごろまでの約一時間半の日照が得られるがその余は主として本件建物の日影になり、同斉藤居宅は終日日照を得られない。(右の日照時間は本件建物を三階建にしても大きくは変らない。)

また申請人ら家屋と本件建物との距離が約二メートルしかないため本件建物の高さから受ける申請人らの圧迫感は相当なものと認められ殊に高さ三一・四六メートルのパーキングタワーを真下から見上げる形になる近藤、福岳宅において著しい。

二、以上の事実を綜合すれば本件土地が商業地域内にあることを考慮してもなお本件建物建築により申請人らの受ける不利益は、その受忍限度を越えるものと言わざるをえない。

一方土地の効率的利用のため建物の高層化はある程度やむをえないところであり、本件建物の三階を越える部分の禁止は被申請人の損害が大きく、その割に申請人の受ける日照時間に大きな変化がない(尤も被圧迫感には大きな差異がある。)ことから被申請人に右の制限を課するのは相当とは認められない。そこで被申請人の受ける影響をできるだけ小さくし申請人らの日照を確保するための方法としてパーキングタワー建設を中止し別紙図面の赤斜線部分の設計を変更することが考えられる。この方法によれば本件建物は七階建のままでも右申請人斉藤方にも窓等を工夫することにより午前八時すぎから九時までの約一時間および午後二時から少しの時間日照が得られるうえ本件建物から受ける申請人らの圧迫感もかなり弱くなるものと考えられる。これに対し被申請人はパーキングタワーを建設しなければ採算がとれない、右斜線部分の設計変更は建物全体の強度に影響し不可能であると主張して設計変更に応じる意思はないことを明らかにし、パーキングタワーおよび右斜線部分を含めた本件建物一階部分のコンクリート工事を施工し一階部分をほぼ完成して本件建築工事を続行している。しかし右の申請人らの受ける不利益を考えればパーキングタワー建設中止から生じる不利益は被申請人の忍ばねばならない範囲のものと考えられ、別紙斜線部分の設計変更は同部分建築予定が三階までであることから被申請人のうける損害も割に小さく、費用はかかるかもしれないが他の部分の手直しにより不可能ではないと判断し、右の限度で申請人らの申請は理由があると認められる。

本件建物が予定通りに完成してしまえば後日その一部を撤去することは著るしく困難となること明らかであるから今直ちに建築工事差止の仮処分を発付すべき必要性が認められる。

よって、申請人らの本件申請は被申請人に対しパーキングタワーの建築中止および別紙斜線部分の設計変更を求める限度で理由があるからこれを認容し、申請人ら共同して被申請人に対し金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の保証を立てることを条件とし、主文のとおり決定する。

(裁判官 甲斐誠)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例